テキストサイズ

誰も見ないで

第4章 真実と真実


「……うん、ありがとう」


そう答えてから


「あっ」


思い出した


明日、渡辺君と出かける予定だった
けど


僕が突然声をあげたから電話口で大和くんが「どうした?」と不思議がっている


「ごめんね、なんでもない。持ってたもの落としちゃっただけ」
「ふーん? 大丈夫か?」
「うん」


断ったり連絡したりしてないけど
いい、よね


僕は自分の心の痛みばかり考えて、人のことなんて全く考えられていなかった


連絡もしてなかったら普通は時間にちゃんと来てくれる
だから明日大和くんと会うのはおかしいってわかってる

でも、僕のこと騙してたんだから
もうこの関係だって終わりなんだから

最後に少しくらい渡辺君だって困ったらいい

なんて思ってた

人として最低だけど


僕はシャワーだけ浴びて、何も考えなくていいようにまた布団に入った


そして次の日
インターフォンが鳴ったのは朝の10時頃


「はい」
「よぉ。入るぞ」


そう言ってなんの断りもなくズカズカ僕の家の中へ入っていく大和くん

その背中を見送りながらいつも通りだ、って心の中で笑う


大和くんは部屋に入ると、一緒に食べるために買って来てくれたのかたくさんのお菓子を机の上にドサドサ、と置いた

ストーリーメニュー

TOPTOPへ