誰も見ないで
第14章 文化祭
それからの文化祭の準備期間は嵐のようだった
衣装の採寸
メニューの考案や調理マニュアルの作成
食材や使用する機材の確保
更にそれに加えて、男子全員にクラスメイトの演劇部員から接客指導まであった
「違うから! そこは『お待たせいたしました、お嬢様』だってば! あと笑顔!」
「お嬢様忘れただけだろ! つーかなんだよお嬢様って!」
細かい指導に怒る男子と、それを上回って怒る女の子
「お前らのどこがお嬢様なんだよ!!!!」
最も突っ込んではいけないところに口を出して女子の半数以上から非難の目を向けられた生徒を横目に、俺の名前が呼ばれる
「渡辺君、次渡辺の番だよ」
俺も怒られるんだろうなぁ
A4用紙1枚でも足りなかった接客マニュアルを頭の中で反芻しつつ、設置された指導用の机の1つに向かう
丸いお盆を持たされて制服で立つ姿はあまりに滑稽じゃないだろうか
「じゃあお客様が来店したところからね」
ドアを示すために床に貼られたビニールテープの向こうに一旦女の子が行って、「スタート」と声をかけながらそのテープを跨いだ
最初は
「お帰りなさいませ、お嬢様」
おっと、笑顔を忘れてた