誰も見ないで
第14章 文化祭
「あー……」
困ったような顔をした正樹は、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる
「何にもなければきっとすぐ諦めるよ」
「……うん、ありがと」
頑張れ、と慰めの言葉をかけられて、陰鬱な気持ちが少しだけ晴れる
少しの我慢だ
少しの
俺はそう言い聞かせながら学校に行った
退屈な授業を受け、更に休み時間に木下さんのガードをなんとか抜け出してトイレに行った
その帰り
「渡辺君!」
ここ最近は木下さんにすごくよく呼ばれる俺の名前が廊下に響く
けどその声の主は木下さんではなくて
「小川さん……?」
最近の悩みのタネの1つでもある
クラスメイトの小川さんだった
「あの……教室じゃ、話しかけにくい、から……こんなところでごめんなさい」
もともとそんなに社交的ではなくどちらかというと内気な小川さんは、自分の手元に視線を落としながら話す
「それは全く構わないけど、何か俺に用?」
極力優しく聞いたつもりだったんだけど、小川さんは怯えたように手と手を軽く握った
「あの……こんなこと聞くのは、失礼なんだけど……」
何を聞かれるんだ
心臓がトク、と小さな音を立てる