誰も見ないで
第14章 文化祭
ガーゼに染み込ませた薬品で襟足の髪を少しずつ拭いてどうにかペンキを落としてもらっていると
「先生ー! うちのクラスでケガした人がいるんですけど来てもらえませんか」
違う学年の人が入ってきて
「じゃあこれ、難しくないからお願いできるかしら。終わったら少し休んでから行きなさいね」
とガーゼを瑞稀君に渡して先生は入ってきたその人と一緒にどこかへ行ってしまった
「……髪、拭くね」
「……ん」
2人っきりの保健室で、瑞稀君の手が優しく俺の髪に触れる
そこで俺は初めて
瑞稀君への怒りの感情がお腹の中でぐるぐる渦巻いてることに気がついた
なんでだっけ
考える間にもその怒りはどんどん大きくなって
気を抜けば怒鳴ってしまいそうなほど
でも俺を庇ってくれた瑞稀君を怒るなんて、そんなことしちゃいけない
「……」
少し俯きながら必死でこの怒りの理由を探す
けど、答えは見つからないまま
膨れ上がりすぎてどうにもならなくなった怒りが
雫となって俺の目から流れて
膝の上で握った手の上に落ちた
「……っ」
「湊斗君……!?」
俺の異変に気がついた瑞稀君は慌てたように顔を覗き込んでくる