誰も見ないで
第16章 全部知りたいのに
結局授業が終わってからすぐにトイレに行って
誰からも見られない個室の中で深呼吸をした
そして何もしてないけど一応、と手を洗って出ると
「瑞稀君」
と僕の名前を呼ぶ声
ぱっと振り返ると、そこにいたのは今会いたくなかった湊斗君
ではなく、僕を探していたらしい正樹君だった
「正樹君、どうかしたんですか?」
「ごめんね、こんなところで。あのさ……湊斗が海外に行くとかって話、本人から聞いてる?」
ドキ、と心臓が跳ねる
けど本当に何も知らない僕は首を横に振った
「……知りません。進学するって言ってたのは確かに聞いたんですけど」
今となってはそれも、自分の妄想だったんじゃないかと思えてくる
「やっぱりそうだよね……なんで俺たちに話してくれないんだろ。俺はともかく、瑞稀君なら知ってると思ったんだけど」
今1番側にいるのは確実に僕の筈なのに、僕は何も知らなくて
1番長い付き合いの筈の正樹君も何も知らなくて
でも、先生は知ってるかもしれない
そんな事実が苦しくて
僕は俯いた
「……」
正樹君はそんな僕を見て心配そうな目を向けながら僕の肩に手を置いた