テキストサイズ

誰も見ないで

第19章 誰も見ないで


瑞稀君は硬くしていた身体の力を抜いて
俺に凭れかかるみたいに抱き締め返してくれた


「……ごめんね」


そして次に謝罪の言葉を口にしたのは
俺ではなくて瑞稀君だった


少し身体を離して顔を合わせると、涙で顔を濡らした瑞稀君がいる


ごめんって
どうして瑞稀君が謝るの……?


俺の心の中の疑問を感じ取ったらしい瑞稀君は、俺の顔に両手を添えて


「一緒に行けなくてごめんね」


と言って

笑った


「!」


ズキン、と胸が痛む

そんなの反則だ
そんなの

だって

こんなつもりじゃなかったのに



目から流れ出た温かい雫が頬を伝って
瑞稀君の顔の上にぼたぼたと落ちた


泣かないで離れようって
そう思ってたのに


「……っ俺も、離れたくないよ……!!」


本音は一杯になったバケツから溢れるみたいに
止めどなく目から雫として、口から言葉として出ていった


「瑞稀君……お願いだから、離れててもずっと俺のこと忘れないで。俺のことだけ考えて」


最後にこんなこと言うの最悪だ
自分が選んだのに

女々しくて
みっともなくて
恥ずかしい


それでも、もう止められるだけの力が俺にはない

ストーリーメニュー

TOPTOPへ