誰も見ないで
第20章 誰も見せない
また首を横に振られて
ぎゅ、って
だめだ
かわいすぎる
「じゃあ帰ろっか?」
その言葉に安心したのか、少しだけ腕の力が緩んで
落ち着く位置にごそごそと調整している
それでも抱きしめる腕を離してもらえなくて
電車の話をしようものならすぐさままた首を横に振られるから、仕方なくタクシーを拾って帰った
仕方なく、なんて
ただの照れ隠しで本当は嬉しいんだけどね
タクシーの中でも横に並んで座ることすら嫌がられ、俺の膝の上に座る形でまた俺を捕まえるみたいに抱き締めてくる瑞稀君
卒業式に着てたスーツそのままだけどいいのかな
ずっとこんな感じで
だっこちゃん人形だっけ
こういうやつ、なんかあったよね
あの人形自体は全くかわいさがわからないけど、こういう行為のかわいさはすごくわかる
好きな人にこんなことされたら堪らないよ
家までタクシーに揺られながら、時折瑞稀君の髪を弄ったり細い腰を撫でたりした
「すみません、ありがとうございました」
家の目の前でタクシーを降りる
家の中までの移動はもう効率重視で俺が抱えて歩いた
って、あ
俺ロッカーに荷物預けたまま来ちゃった