マリア
第9章 傾想曲
双子だったに関わらず、五体満足な僕が、
病気を抱えて生まれてきてしまった礼音に何かをしてあげたい、って思う気持ちと、
同じ父を持ちながら、家の外で生まれ落ちた年の離れた弟に、
早くに母を亡くした、血を分けた可哀想な弟に、兄として、先に生まれた者の使命感から何かしてあげたいと思った気持ちは、
優越感ゆえ生まれた気持ちに他ならない。
逆に、僕が病気を抱えて生まれてきていたら、礼音が幸せになる姿を見たい、って思えるか自信なんてない。
先生だって、立場が逆だったら多分同じ。
先生の言う通りだ。
僕と先生は、
安全な立ち位置からきれい事を言ってるだけだったんだ。
けど、僕たちが、
僕たちが悪い訳じゃない。
テーブルに置かれた先生の震える指先にそっと触れる。
すると、先生の指先は、まるで叱られた子供が怯えるかのようにビクッと波打った。
「泣かないで…。」
悪いのは、
僕らを選ばなかった神さま…。
だから…
「お願い、泣かないで。」
すがるように握ってきた指先。
落とさないように、壊さないように、
そっと、握り返した。