マリア
第10章 夜想曲
苦しさから逃れるみたいにシーツに顔を埋めていると、
誰かが部屋のドアをノックしていることに気づいた。
「智、お夕飯、出来てるわよ?」
「うん。分かった。」
ベッドから降りて母さんに背を向ける。
「ねぇ、智。」
「何?」
「最近、病院に顔出さないけど…礼音と何があったの?」
「ど…どうして?」
「あなた、礼音が入院すると、毎日のように顔出してくれてたじゃないの?」
「それは…」
「それに、翔くんだって全然顔見せなくなったし…。」
『翔くんにとって、私は重荷にしかならないから…』
『私が発作を起こした時の翔くん、とっても怯えてた。』
『今、ここで私に死なれたらどうしよう?って顔してた。』
『…いいじゃない?このまま私と翔くんが終わったって…』
翔くんとのことで揉めてるなんて、とても言えなかった。
「翔くんも色々と忙しくてそれで…。」
それに、翔くんともここ最近、顔を合わせていないことさえ…。
「それならいいんだけど、智、あなたまで…」
「…ごめんなさい。明日、必ず行くから。」
『…長くないかもしれないのに?』
『ずっと礼音のこと好きでいられるかどうかも分かんないのに…?』
礼音に会って…
翔くんの気持ち、ちゃんと伝えなきゃ…。