マリア
第10章 夜想曲
学校が終わってすぐ、間近に迫った文化祭の準備もほどほどに病院に向かった。
相変わらず足取りは重かったけど、先伸ばしすればするほど言いづらくなるからと思ったら迷わず礼音の病室に行くことができた。
「礼音、入るよ?」
返事はなかった。
今の時間は父さんも母さんも来ていない。
もちろん、翔くんも…。
病室に入ると、礼音はベッドヘッドに凭れかかるようにして窓の外を眺めていて、
僕がベッドの側にパイプ椅子を引き寄せ座っても、ずっと、外を眺めていた。
「礼音、あのね…」
礼「翔くん、もう、会いたくない、って?」
「え……?」
礼「いつ死ぬか分からない女の子の面倒を見るのはゴメンだ、って?言付かって来たんでしょ?」
「礼音…」
膝の上に置かれた白くて細い指先。
一段と細くなって、
一見、若い女の子のそれには見えない指先が小刻みに震えていた。
「ごめんね、礼音?」
礼「何で智が謝るの?」
「だって…何にも力になってあげられなかったから…。」
礼「そんなこと…ないよ。」
ゆっくり、礼音が振り向く。
礼「色々とありがと。智。」
「あや…」
そう言って微笑んだ礼音の顔はとても穏やかで、
悲しいぐらい綺麗だった。