マリア
第10章 夜想曲
「ずっと私の側にいて…」
そう囁いたあと、礼音は小さな子供のようにわんわんと泣き出してしまった。
僕も礼音が泣き止むまで、一段と痩せ細った体をずっと抱きしめていた。
「ずっと…側にいてあげる。」
抱きしめながら、宥めすかすように背中をぽんぽん叩いてあげる。
「これからは僕が礼音のこと守ってあげる。だから、もう、泣かないの!ね?」
礼「智…」
そう…これからは僕が礼音の側にいて、僕が礼音を守ってあげる…
少なくとも、この時の僕の言葉に嘘はなかった。
そう、この時までは…。
スーパーのパートの仕事を終えて、病院へやって来た母さんと入れ替わるように病室をあとにし、しばらく歩いていくと、
小さな女の子の目の前で跪く白衣の男性が目に留まった。
その男性は、女の子の頭を撫でながら何かを語りかけていて、やがて立ち上がって此方を振り返った。
あ……。
振り返ったその顔に、
心臓が微かに跳ね上がる。
松本…先生。
先生は僕に気がつくと、にこ、と笑って、
ゆっくりとした足取りで僕のところへやって来た。