マリア
第10章 夜想曲
…医者って忙しいんだなあ。
てっきり仕事関係だと思っていた僕は、走り去る先生の後ろ姿をぼんやりと見送った。
「え…お見合い?」
和「跡取りだしね?いい年して、いつまでも一人でいるな、ってことじゃない?」
二宮くんはチュッ、とストローを吸った。
「そう…なんだ。」
和「彼女もいないしさ?」
「ふーん…。」
病院から出て何となく二宮くんに電話してみたら、まさか、繋がる、って思ってなかったから、
とりあえず会ってお茶しようか、ってことになって、先日一緒に来たファミレスで落ち合った。
和「………。」
定まらない視線のまま、グラスのストローを延々とくるくる回している僕を見る二宮くんの視線に気づいて、慌ててジュースを飲み干した。
「お、おかわり持ってこよう、かな?」
グラスを持ち、席から立ち上がる。
松本先生が、お見合い…。
サーバーから落ちてくる液体が、物凄い勢いでグラスを満たしてゆく。
『これから人と会うんだ。』
先生、結婚するんだ…。
…そうだよね?遅いぐらいだよね?
いつの間にか一杯になっていたグラスを持ち席に戻ると、
何か言いたそうにしている二宮くんと目が合った。