マリア
第11章 変奏曲 ①
シャワーを浴び、ご飯も食べずにベッドに潜り込む。
俺は疲れていた。
俺は一体いつになったら楽になるんだろう。
一体いつになったら解放されるんだろう、って、
あの日からずっと考えていた。
そう、アイツの顔から、笑顔が消え去ってしまった日から……
当時、俺はここに越してきたばかりで、
真下に住んでいたアイツは、何かにつけて俺のところに顔を出していた。
料理を作りすぎてしまったから食べないか、とか、
休みが被ったりすると、買い物に行かないか、とか誘いに来たりして、
俺が首を縦に振ることなんて有り得ないのに、とにかく、まあ、マメに俺んとこにやって来てた。
そんなある日、
天気もよかったし、目障りなアイツも来なかったしで、すこぶる機嫌のよかった俺は、ベランダで洗濯物を干していた。
すると、下の階から楽しそうに笑う女の声と、アイツの笑い声が聞こえてきた。
へぇ…アイツ、女、いたんだ?
どうりで顔を出さなかったワケだ、と、何だか無性に腹が立って、
ベランダに通ずる窓を、 わざと大きな音を立てて閉めた。