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マリア

第11章 変奏曲 ①



その日の夜、アイツはもらったものだとか言って、どこから見ても手作りっぽいお菓子を持ってきた。



「ありがと。もらっとくよ?」



普段、ヤツから何か受けとるにしても、素っ気ない態度をとる俺だったけど、



ちょっと唇の端っこをあげて作ったような笑顔を向けただけなのに、



アイツは嬉しそうに自分の部屋へと戻っていった。



あの女からもらったのか…。





俺は見た目有名パティシエが作った、と言っても遜色ないその手作りのお菓子を…






…ゴミ箱に投げ入れた。





数日後の朝、学校へ行く途中、



朝っぱらから仲良くエレベーターに乗り込むアイツと女に遭遇した。





…朝帰りさせるような仲なのかよ?





俺と目が合うと、アイツは彼女と少し離れた場所に立って、俺に話しかけてきた。



その会話の中で、この間俺のところに持ってきたお菓子はどうだったのか、と聞いてきたから、



アイツの後ろに隠れるみたいに立っていた女が、目こそ合わせようとはしなかったものの、聞き耳を立てているような気がしたので、とびきりの作り笑顔で『うまかった。』と言ったら、



女の、淡いピンク色した唇の端が僅かに持ち上がった。





ホント言うとあのお菓子、





俺の胃袋ん中じゃなくて、










ウチのゴミ箱ん中に入れちゃったけどね?



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