マリア
第12章 追走曲
「この間のこと…謝ろうと思って?」
智「この間のこと?」
智は膝におかれたスケッチブックを一枚捲って持ち直す。
智「ね…翔くん、せっかく来てくれたんだから似顔絵、描いてあげる。」
智はまるで俺の言葉が聞こえてないのかのように笑顔を見せたあと、画用紙の上に鉛筆を走らせた。
智「ちょっとだけじっとしてて?すぐに終わるから。」
「う…うん。」
智「大丈夫!心配しなくてもお金はとらないから。」
サービスだよ、と智は微笑んだ。
静寂の中で、さらさらと紙の上を行き来する鉛筆の音と、
俺の顔を食い入るように見つめているであろう智の視線を感じながら、
俺の心音が一際大きく弾け飛んだような気がして、
その音が智に聞こえたりしないよう、俯き、自分の体を両腕で抱え込むように抱きしめた。
智「どうしたの?気分、悪いの?」
「イヤ…平気。」
智「じゃ、もう少し、顔、こっちに向けてもらってもいい?」
「こう?」
椅子に腰かけたまま智と向かい合う。
智「ありがと…」
少し疲れた様子で笑う智と目が合った。