マリア
第13章 夢想曲
慌てて立ち去ろうとするその背中をしばらく見ていたけど、
気づいたら、そのあとを追いかけ走り出していた。
「先生!!」
止まってくれないかも、と思って呼びかけた。が、
先生は立ち止まってくれた。
「あの……」
潤「何?どうしたの?」
松本先生は、白衣のポケットに手を入れたまま振り返った。
「あ…いや…大したことじゃ…」
潤「そう…?なら、これで失礼するよ?」
「結婚……するんですね?」
潤「まだ、決まった訳じゃない。それに、君には関係ないだろう?」
松本先生の指先が、たまたま目の前にあった観葉植物の大きな葉を弄ぶ。
「そう…ですね?」
潤「それとも僕に結婚して欲しくない、とか?」
プチ、という音と共に、
松本先生の指先には、先程の大きな葉っぱがあって、
その葉っぱを指先で弾き飛ばすと、
先生は、見たこともないような、どこか異様で、どこか穏やか笑みを浮かべながら僕に歩み寄ってきた。
潤「…違う?」
「そんなっ!?違いま…」
何時ものように、僕の顔を覗き込んできたか、と思ったらマスクを外され、
先生の吐息の温度が、肌に感じられる距離に近づいてきて、
リップ音と共に、
先生の唇が僕の唇に重なった。