マリア
第13章 夢想曲
「ん……くっ…。」
遠ざかる、湿った温もりが僕たちの間で名残の糸を引いた。
「せ…んせ…」
銀色の糸を絡めとるように、先生の指先が僕の唇をなぞる。
潤「なんて顔するんだ…」
「え……?」
先生の言葉の意味がわからず、ただ、先生の顔をじっと見つめる。
潤「ここが病院でよかったね?」
名残惜しそうに唇をなぞる指先。
潤「歯止めがきかなくなりそうだ。」
「あの…どういう…?」
無言で、ニコッ、と笑った顔は、もう、
いつもの先生だった。
潤「風邪、早く治るといいね?」
じゃ、と、片手を上げ、
白衣を翻し去ってゆく先生。
その、背中を見えなくなるまで見送ったあと、
先生の感触が残る唇に触れる。
しっとりしてて、熱くて、そして、
…甘く蕩ける……ような……
「先生……」
にわかに、誰かの気配を感じて振り向くと、
礼音が心配そうに僕を見ていた。
「ビックリした…」
礼「大丈夫?顔、赤いよ?」
いつの間にか下にずらされていたマスクの位置を正し、笑う。
「何でもない。行こ?」