マリア
第13章 夢想曲
礼「ね…松本先生と何話してたの?」
帰りのタクシーの中、礼音が僕の顔を覗き込んでくる。
「別に?何で?」
礼「だって…何かこう…分かんないけど、いつもと違うから…」
僕にだって分かんないよ。
あの時の松本先生の顔…
言葉…
そして…
無意識に唇に触れる指先。
その感触を思い出しては噛みしめる。
体の奥から沸き起こる熱の正体を探ろうとして、
一旦は諦めて、
でも、体の奥で咀嚼して確かめようとしたけど、やっぱりわかんなくて。
『ここが病院でよかった。』
病院でなかったらあの時の僕は…先生はどうなっていたんだろう?
礼「智…?」
不意に、礼音に体を揺すられ正気に戻る。
礼「智、体、熱いよ?」
「そんなこと…な…」
でも、礼音の言う通りだった。
少し首を動かしただけなのに、頭と体が別物みたいにフワフワする。
礼音は僕の体を自分の体に寄りかからせるように抱き寄せた。
「ごめん…」
礼「ううん、平気。智、軽いもん。」
そう言うと、僕の肩に頭を乗せ笑った。