マリア
第13章 夢想曲
タクシーの後部座席に乗り込んですぐ、松本先生は背凭れに体を預け目を閉じたまま動かなくなってしまった。
寝ちゃったのかな…?
バックミラー越しに見る松本先生は微動だにしない。
でも、車内が比較的静かだったから、隣からは密やかな息づかいは感じられた。
潤「責任…感じてるんだ?」
「え?」
潤「風邪…移したこと。」
「そっ…それは…」
先生の顔が近づいてきた、と思ったら、
触れるか触れないかぐらいのキスをして、すぐに離れていった。
「せ、先生…」
潤「心配しなくても風邪が君に移る、ってことはないと思うよ?」
妖艶に細められる目。
どうしようもなく胸が締め付けられて、
どうしようもなく熱くなる。
「そ、そんな心配、してませんからっ!!」
潤「じゃ、何も不安はないの?」
そして、
そんなあなたの笑顔に…
潤「このまま僕の部屋に来ても…?」
どうしようもなく惹かれてく………
部屋に帰りつくなり先生は無言のまま寝室に入っていって、
いつまでたっても出てくる様子も物音もしない寝室に不安を覚え、ドアをノックした。