マリア
第13章 夢想曲
潤「うつるよ?」
困ったように笑いながら、親指で涙を拭ってくれる。
「ふふっ。さっきはうつらない、って言ってたじゃないですか?」
潤「そうか。じゃ、うつさない、の間違いか。」
今度は先生の方から顔を引き寄せて唇を重ねられる。
「先生、僕…」
まるで、僕が言おうとしている言葉を言わせぬようにキスを繰り返す。
潤「…知ってる。君が僕に何を言おうとしているのか。」
「せんせ……んっ…」
角度を変え、
啄むように重ねてきたり、
貪り食うように激しく重ねてきたり、
まるで僕の唇を味わうかのように違うキスをしてくる。
潤「その目……その目を見ると止まらなくなるんだ。」
僕の頬を両手で包み込むように顔を上向け、
ゾクッとするほど妖艶な目で見つめてくる。
潤「ここは…病院じゃない。だから、誰も見ていない。咎める者もいない。」
先生の、妖しいまでに深い色合いの瞳の奥を探るように見つめ返す。
潤「引き返すなら今だよ?」
こくり、と喉がなる。
潤「今、君の目の前にいるのは親切な心療内科の先生じゃない。」
…知ってる。
潤「蜘蛛の巣に捕まった憐れな獲物を食おうと目論む蜘蛛の類いだ。」