マリア
第14章 虚飾曲
智「ありがと…」
人混みに消えて行く変態オヤジの背中を目で追いかけていると、消え入りそうな声で大野くんが言う。
「どういたしまして。」
大野くんの方に向き直り笑うと、
大野くんも袖口を握りしめたまま笑ってくれた。
その笑顔にしばし見惚れていると、電車が減速を始めた。
智「相葉くん、次、降りるんだよね?」
「あ、ああ、そだね?」
智「今日はありがと。ホントに助かった。」
相変わらず、俺の袖口を握りしめたままの君に、
俺は、思わずこんなことを口走っていた。
「アイツがまた戻ってくるかもしれないから、このまま大野くんの学校まで付き合うよ?」
智「もう平気だよ?相葉くんがあれだけ言ってくれたんだから。」
「遠慮しないで?俺が送っていきたいの!!」
智「え?」
「あっ!!だ、だからその…と、とにかく遠慮しないで!ね?」
智「でも…相葉くん、学校は…」
「いーのいーの!!翔ちゃんみたいな優等生ならともかく俺なんて…」
と、揉み合っているうちに電車が止まり、扉が開いた。
智「ほら、早く降りないと……あ…。」
見る間に閉まる扉を見て肩を落とす大野くん。
遅刻欠席なんていつものことだから、俺にとっては屁でもない。
「じゃ、参りますか?」
ふざけて恭しく頭を下げる俺に、
目の前の彼が苦笑した。