マリア
第15章 悲愁曲
玄関のドアを開けると、
二宮は、俺の背中を力一杯、外へと押し出し、ガチャガチャと聞こえよがしに鍵を閉めた。
「打出の小槌」か…。
確かに、智にこいつをちらつかせば俺の言うことを何でも聞いてくれるかもしれない。
幻覚の中だけじゃなくて、
本当に智が抱けるかも知れない。
俺はそれでも構わない。
智が抱けるのなら…。
でも、気持ちの伴わないセックスなんて…
動物の交尾と同じじゃないか。
智……。
君は、そんな俺をどう思うだろうか。
『…アンタがモタモタしてっからアイツに盗られちゃったんでしょ?』
俺が手をこまねいていてもそうでなくとも、
智は端から俺のものになる気なんかないんだから、
それをあの医者とくっついたから、って、俺がとやかく言う資格なんてない。
むしろ、智の想いが報われたんだから、
友だちとして喜んでやらないと……
…って、
そっか、俺ら、もう友だち止めたんだっけ?
智、良かったな?おめでとう。
面と向かって言えそうにないけど…。
扉の開いたエレベーターの前で俺は泣き崩れた。