マリア
第16章 迷走曲
潤「智くん。僕だよ?」
傍目からも分かるぐらいに、その白い塊が衣擦れの音と共に大きく蠢いた。
潤「お願いだから、顔、見せてくれないかな?」
松本先生の懸命な働きかけもあってか、
こちらに背を向けたままだったけど、智が顔を覗かせた。
潤「いい子だ。」
松本先生の柔らかい口調にほだされ、智はゆっくり体をこちらに向けた。
智「先生…僕……」
潤「話はあとにして、傷の手当てをしよう。」
微笑みながら智の髪を撫でると、鞄の中からゴム手袋やら何やかやと色々なものを取り出した。
そして、ふと、何かに気づいて、側にいた二宮に耳打ちする。
小さく頷いた二宮と俺の目が合い、俺は部屋から出されてしまった。
和「今から手当てするみたいなんで、ちょっと外していて欲しいそうです。」
別にいてもいいだろ、と抗議しようとした矢先、
智が激しく拒絶するような声が聞こえてきた。
潤「和也くん、ちょっと来てくれ!!」
その声に被さるように聞こえてくる松本先生の声に、思わず身を乗り出すも、
和「ここにいて下さい。俺、行くんで。」
静かな、でも威圧するような二宮の目と口調に気圧され、俺だけ部屋の外に追い出されてしまった。