マリア
第16章 迷走曲
和也side
アイツに呼ばれて部屋に戻ると、ベッドの上で暴れる大野さんと格闘しているアイツがいた。
智「やだやだ!!触らないで、放っといてよ!!」
潤「頼むから、言うことを聞いてくれ!!傷の状態だけでも見せてくれないか!?」
智「いや!!いくら先生でもやだ!!」
潤「あっ!!か、和也くん、早くこっちへ!智くんを頼む!!」
慌てて二人のもとへ駆け寄り、兄貴とふたりがかりで大野さんの体を押さえつけた。
智「やだってば!!二宮くん、お願いだから離して!」
和「大野さん、俺からもお願い。兄貴の言うことを聞いて。」
智「いや……それだけは許して…。」
ぼろぼろと涙を溢す姿を見て、居たたまれない気持ちになる。
好きな人の前で、凌辱された痕を晒す惨めさは、死ぬほど辛いに違いない。
俺は改めて自分のやらかしたことを激しく悔いた。
潤「智くん。頼む。君のためなんだ。」
智「やだぁ…。」
ぶんぶんと頭を左右に振る大野さんを、アイツが優しく抱きしめる。
「………」
大野さんを抱きしめるアイツの姿に、何故か息苦しいぐらいに胸が締め付けられる。
その時は、きっと、罪の意識に苛まれているせいだ、と思い込んでいたんだけど…。
結局、色々あったせいで疲れていたのか、
やっと大人しくなった大野さんはベッドに横向きに寝かされ、
枕に顔を埋めて、声を押し殺すようにして泣いていた。