
マリア
第16章 迷走曲
「大野さんの手前、言えなかったけど、アンタ、ホントは大野さんのこと、何とも思ってないんだろ!?」
先になって歩いている背中が立ち止まった。
潤「どうして…そう思う?」
「どうして、って、だってそうじゃない?仕事を優先する、ってことはそうなんじゃないの?」
潤「君が言うんならそうなのかもしれない。」
「はあ?かもしれない、って!?それじゃ、何か?他の男に犯された恋人なんて、穢らわしくてもう抱きたくない、とか?」
はあ、と、ヤツは重そうにため息を吐いた。
潤「そんなことはない。彼のことは愛おしいし大事にしたい、と思っている。でも…」
「でも、何?」
潤「それ以上に、愛おしいと思う存在がいたとしたら?」
「は?いたの?そんな人?」
振り返ったヤツに突然手を引っ張られ、つんのめるようによろけると、
俺と同じぐらい、色の白い、でも、ガッチリした力強い腕に抱き止められる。
潤「ずっと……違和感で一杯だったんだ。」
「ちょっ…何やってんの?」
その腕から逃れようと藻掻く。
潤「大野くんを抱いたあとも何故か、罪悪感を拭いきれなかった。」
そこまで聞いて、
俺はこの男の体を思い切り突き飛ばした。
「ふ…ふざけんな!あんな大人しくて素直な高校生に手、出しといて、今さら何を…?」
潤「そうだな?最低、だな?でも…」
