マリア
第16章 迷走曲
ったく、だからなげぇし、と、翔くんはマンションのエレベーターに乗り込んでもずっと言っていた。
「ふふっ。でも、ホントに翔くん、って分かる。」
「やだよ、あんな長くてダサい名前…」
翔くんは壁にもたれて唇を尖らせた。
「翔くん、今日はありがと。」
翔「あ…うん。俺の方こそ…智くんに礼を言われる筋合いなんてないよ。」
と、顔を赤くして頭を掻く翔くんの隣で僕も壁に背中を預けた。
「そんなことないよ?あの時、翔くんたちに拾ってもらわなかったら今ごろどうしていたか…」
でも、ほんとにタイミングがよすぎて、僕も不思議だったんだけど…
と、もしかしたら、って、
何度も可能性を考えては打ち消していた。
こうして、翔くんと僕は一本早い電車に乗り込み、
翔くんは僕を学校まで送り届けてくれた。
「じゃあね、翔くん。今日はありがと。」
翔「あっ…ああ、こんなことでよかったらいつでも言って?付き合うから。」
「うん。」
と、腕時計を気にしながら走り去る翔くんの姿が見えなくなるまで見送った。
その時だった。
僕のスマホに、彼からの着信があったのは。