マリア
第18章 虚偽曲 ①
な、何だ?
しばらく黙ったまま智はニコニコしていたが、やがて、智の綺麗な指先がすっと伸びてきて、俺の顎先を指した。
智「翔くん、ここ。」
付いてるよ?と小首を傾げながら言った。
智「じっとしてて?とってあげる。」
俺としたことが、と思いながらも、いつものように智が取ってくれるのを大人しく待っていると、
え………?
智の顔が俺の顔のすぐ近くにあって、
俺の顎先を柔らかくて生暖かく湿ったものがぬるり、と触れた。
えっ!?な、何?今……。
思わずその箇所を手で押さえながら後ずさってしまった。
それもそのはず、
俺の顎先に触れたもの。
それは、智の指先ではなく、
適度に湿り気を帯びた、智の舌先だったからだ。
智「んふっ。やっぱ、美味しいね?翔くんのお母さんが作ったケーキ。」
そう言って微笑む智はゾクッとするほど色っぽくて、
もしかして、夜な夜な人の生き血を啜って生き長らえている人外の魔性の類いなんじゃないか、とさえ思わせた。
智「どうしたの?」
「い…いや…べ…別に…」
智「急にどもっちゃって…変なの。」
智は何事もなかったかのようにケーキを食べ始めた。
智「食べないの?」
「あ……いや…」
智「要らないなら食べちゃうよ?」
俺の返事を待つことなく、智は俺のケーキにフォークを突き立てた。