マリア
第18章 虚偽曲 ①
智「コーヒー、おかわりいる?」
俺のカップが空になっていることに気づいた智が声をかけてきた。
「あ…うん。」
智「どうしたの?さっきから?ああ、か、うん、しか言ってないじゃん?」
「そうかな?」
智「そうだよ?ちょっと待ってて?」
そりゃそうだろ?
いきなりあんなことされりゃ誰だって…
と、さっき、智が舐めた顎先に触れた。
当たり前だけど、もうそこは乾いていて、
智が舌で触れた形跡なんて微塵も残ってなかった。
ホント、ビックリした…。
いつもの智からは考えられない行動。
『父さんも母さんも仕事でいなくって…』
もしかして…俺、…誘われてる?
智の舌が触れた場所にまた、触れてみる。
まさか……な。
智「はい、お待たせ。」
「……サンキュ。」
立ち上る湯気の向こうで智が笑う。
初めて智にキスした時、あんなに拒否られたしな?
内心、否定しながらも俺は、心のどこかで期待していた。
「あっ!!俺のケーキが!!」
智「えっ!?要らないんじゃなかったの?」
「言ってねぇ、って…」
ほぼ、一口大になってしまったケーキを口に運びながら、
やっぱあり得ないな、って否定している俺がいた。