マリア
第18章 虚偽曲 ①
「あのさ、聞いていい?」
智「何?」
すっかり冷めてしまったであろうコーヒーを啜りながら智が上目でこちらを見た。
「その…先生とは、うまくいってんの?…って、俺にこんなこと聞く権利なんてないのかもしんないけど?」
智はカップをことり、とテーブルに置き、俯いた。
智「あんなことがあった…から?」
「ご…ごめん、イヤなこと思い出させて…。」
俯いたまま、細長い指先でカップを弄ぶ。
智「何て答えてほしい?」
「え……?」
智「うまくいってない、って言ったら翔くん、嬉しいの?」
「あ…いや…その…」
智「ふふ。答えづらいよね?ホントのこと言うと、最近、会ってなくて…。正式に婚約が決まってからは特に…って、当たり前か。」
寂しそうな笑顔に胸が締め付けられる。
智「でも、それだけじゃないみたいなんだ?」
「どういうこと?」
智「他にもいるみたいなんだ。」
「他にいる、ってどういう…?」
智「付き合ってる人が。」
「……ウソだろ?」
二股かけられてたって?
智「もうダメかも……」
アイツ、他に付き合ってるヤツがいながら智のこと…
智「先生、結婚にあんまり乗り気じゃないみたいだし。もしかしたらその人のこと、本気なのかも?」