マリア
第18章 虚偽曲 ①
「さ…さと…っ!!」
智「お願い…翔くん。」
すがるようにしがみついてくる智に、心臓が破裂しそうなぐらいに打ち付ける。
智「この匂い…落ち着く。」
智は胸元に鼻先を押し付け深呼吸を繰り返した。
智「温かくて、いい匂い。」
呼吸の度、智のサラサラの髪の香りが鼻を掠め、体の奥底に押さえ付けていた熱が中心に集まってくる気がして、
慌てて智の体を引き剥がした。
智「翔くん?」
呆気に取られた顔で、上目で見つめ返す智の目。
「ごっ…ごめん!!俺…。」
耐えきれずに俺は智に背を向けた。
智「ねぇ、翔くん。」
「触るな!!」
智「え……?」
「あ……いや…その……」
見る間に智の目に涙がたまってきて、
瞬きの拍子にポロリと一筋の涙が頬を伝った。
智「ひどい…」
「ち、違うんだ!!そういう意味じゃ…」
智「僕がこんな目に合ったのは翔くんのせいじゃない!!それをっ……!」
宥める意味もあった。
目の前で泣き出してしまった智をまた、抱きしめてしまったのは。
「ごめん。俺のせいで…」
智「……ん。」
「許してくれとは言わない。」
智「……許してあげる」
「えっ?」
智「その代わり…」
まだ、乾ききっていないまつ毛がゆっくりと持ち上がって、
小さいけれど、強い光を宿した瞳に見据えられる。
智「僕の言うことを聞いて?」