マリア
第18章 虚偽曲 ①
俺にどうしろと……。
智「そんなに構えなくても簡単なことだよ?」
目の前の智が笑う。
見たこともない顔でうっすらと笑う。
智「僕と付き合ってるフリ、してくれたらいいだけだから。」
ああ……松本に見せ付けんのか。
智「ダメ?」
ダメって…俺に拒否権ないんだろ?
「……いいけど。」
智「よかった。ありがとう、翔くん。」
そう言って笑った顔はいつもの智で、
智のお願いが予想外に単純だったことに少しホッとする。
智の、本当の目的なんて考えもしないで。
それにしても、智のあんな目……
あの、暗い光を宿したような目。
初めて見た。
今までの智からは全く想像出来なくて俺の胸は、
異様にザワついていた。
智「また食べたいなあ、翔くんのお母さんが作ったケーキ。」
「お袋に言っとくよ?」
智「ホント?やったあ!!」
嬉しそうに抱きついてきた智は小さな子供のように無邪気に笑う。
でも、それはすぐに影を潜め、ついさっき見た、表面だけを取り繕った微笑に変わる。
智「ねぇ翔くん。目……閉じてみて?」
「え?あ…うん。」
何をするつもりなのか。
子どもっぽいところがある智のことだ。
何かしょうもないイタズラでも思い付いたんだろう、って思っていた。
だが、智の生暖かい息づかいが顔に当たっている気がして薄目を開けると、
智の唇が、俺の唇に重なっていた。
そして、その唇が離れた時、その唇が驚くべきことを告げた。
智「ねぇ…付き合ってるフリするだけじゃなくてホントにヤっちゃおうか?」