マリア
第18章 虚偽曲 ①
もしくは、恋人のフリをしてほしい、ってのは口実で、
振り向いてもらえる見込みすらない先生じゃなくて自分に好意を寄せてくれている俺を選ぼうとしてんじゃないか、って。
でも、やっぱり、
自分を酷い目に合わせた人間だ。
単なる松本への当て付けなんだろう。
智「ねぇ…どうする?」
上目で絡められる指先。
智「今だったら誰もいない…」
「……。」
盗み見る智の目は凄く扇情的で、まともに目を合わせたりしたら俺……
智「僕のこと…好きなんだよね?」
そうだった……。
あの日、ボーダーラインを先に越えてしまったのは俺の方。
友だち以上の関係を望んだのは俺の方。
心が誰かのものだって構わない。
俺は智が欲しかった。
あの時は。
「あの…。」
智「ん?」
でも今は……出来ることならやっぱり……
「でも俺、やっぱりイヤだ。」
智「……そう。」
ニコッと笑った智の体を抱きしめる。
智「翔…くん?」
「付き合ってる体じゃイヤだ。」
智……。
驚いて、動けないでいる智の体をさらに強くきつく抱きしめた。
「俺の恋人になって?」