マリア
第21章 序曲 ②
「だよねえ…お兄ちゃんはもらっただけなんだから、やっぱ、あげた人のセンスなんだよね…」
と、聞こえよがしに言われた。
うるせぇよ!?センスなくて悪かったな!?
そんな、センスゼロの俺にプレゼント見立ててくれ、って言ってんのお前だろが!?
と、あーでもない、こーでもない、とか言う妹から離れ、適当にブラブラしていると、
真っ白な無地の手袋が目についた。
手袋…
不意に、智の綺麗な指先が脳裏を掠める。
しょっちゅう手を擦り合わせながら、白い息を吹きかけていた智。
一緒に歩いていた時、誰にも見られていないことを確認してから、その手を取って俺のコートのポケットに突っ込んでやったら、
智はちょっとびっくりしたような顔をしたあと、
少し照れ臭そうに笑いながら「ありがとう。」ってくっついてきたっけ。
…なんてことを、
ちょっと思い出してはその白い手袋を眺めていると、
その視線の先に、
黒っぽいコートを着た男が目に入った。
あれ?あの人…
食い入るように人の波を目で追うその顔。
そして、時折、何かに気づいたように駆け出しては肩を落としながらもといた場所にとぼとぼと戻ってゆく。
少し、窶れてはいたけれど、俺はその横顔に見覚えがあった。
確か……二宮の…?
そう、その人物こそ、
松本先生、その人だった。