マリア
第21章 序曲 ②
我に返ると、よろよろと立ち上がった先生が、通りがかった人にぶつかりそうになっていた。
潤「ごめん…」
先生の体から鼻をつくアルコール臭が漂う。
俺が少し顔をしかめると、先生は自嘲気味に笑った。
潤「眠れないから酒の力でも借りようと思ったんだけど…」
気のせいかな?
この人を見ていると、姿を消した最愛の弟を探している、と、言うよりは、
まるで…
まるで、恋人を探しているように見えた。
そしてまた、先生はよろよろと立ち上がった。
潤「すまなかったね?せっかく買い物を楽しんでたのに…」
「それはいいんですけど…」
潤「うん?」
「仕事は…」
潤「ああ…来なくていい、って、言われたよ。」
「え?」
先生は悲しそうに笑った。
潤「今のお前じゃ、患者を殺し兼ねない、って?」
あんな、ストイックに仕事に打ち込んでた人が、変われば変わるもんだな…。
潤「さて…と…」
「あ、あの、先生…」
潤「ん?」
「実は…二宮くんがいなくなる前に電話がかかってきて…」
潤「和也に?誰から?」
先生の目に一瞬、生気が宿った。
「誰かからとかはちょっと…」
智の携帯を見て、なんて、とても言えない。
潤「電話…。」
顎を手に乗せ、考え込んでしまう先生。
「…すいません。何かヒントになることがあるかな?って思ったんですけど…役にも立たなくて。」
潤「そんなことないよ?教えてくれてありがとう。」
と、頭をポンポンされてしまった。