マリア
第21章 序曲 ②
それからしばらくあとのことだ。
智の不振行動が目立ち始めたのは。
不振行動、って言っても、時々電話をするために席を外していたぐらいだったけど、
でも、ほぼ、毎回同じ曜日、時間となるとさすがに、何してるんだろう?と、気になってしまって後をつけてしまった。
そうしたら、「にのみやくん」「あいばくん」、という聞き慣れない名前と、
はっきり言葉は聞こえなかったが、
電話の相手に、一つ一つ何かを確認していた。
そして、電話をきると、
たまたまだったんだと思う。
智の視線の先には、携帯電話で話しながら足早に立ち去る松本先生の姿があった。
声をかけるのか、と思いきや、
智はぴくりとも動かず、
そんな松本先生の姿をただ、目で追いかけていた。
忙しそうだったから声かけなかったのかな?
その時はさして不思議に思っていなかった。
そして、今日。
私が退院するという日。
智は風邪気味だから、という理由から来てくれなかった。
そればかりか、
風邪気味だ、と言ってた割には外出している。
生まれた時からずっと今まで私の一番近くにいてくれた智。
失恋した時、ずっと側にいてあげる、と言ってくれた智。
私が旅立つ瞬間まで一緒にいて欲しいと願った智。
私は……
もはや智が何を考えているのか分からなくなってしまった…。