マリア
第21章 序曲 ②
「もしもし、翔くん?」
電話が切れたのか、と呼びかけてみた。
翔『あっ…ああ…ごめん。』
「知ってるの?」
翔『知ってるも何も、その二人…』
「うん?」
翔『その中の一人が今、音信不通なんだ…』
「え…?」
まさか…まさか智が関わってる…とか……
……言わないよね?
翔『実は、ずっと引っかかってることがあって…』
と、翔くんは、
「にのみやくん」が、
忽然と姿を消してしまう前にあったことを話してくれた。
その時、何故かふっと思い出してしまった。
電話を切ったあと、
偶然見かけた松本先生の姿を、黙って目で追っていた智の姿を。
翔『もしもし、礼音?』
「ご、ごめん。少し気分が…」
吐き気がする……
翔『あ、そっか、ごめん。長く話しすぎた。』
「ううん。平気。」
どくんどくん、と、
心臓が重く激しく打ち付ける。
私は受話器を静かに置くと部屋に戻り、
天使の彫り物を施した小物入れを手に取った。
「………」
…どうしたの礼音!苦しいの?
…はい、礼音、これ飲んで?
…礼音、大丈夫?
智……違うよね?
智……違う、って言って?
智……お願い、だから。