マリア
第21章 序曲 ②
バレンタインデー当日の夜。
夕食を終え、リビングで寛いでいるお父さんと智に、
お母さんと二人で、この日のために準備したデザートやドリンクの用意をしていた。
「礼音、そう言えばこの間の翔くんからの電話、どんな話だったの?」
お母さんはケーキを切り分けたあと、シャンパングラスを2つ出し、グラスに注いだ。
「ん…?久しぶりに声が聞きたかったんじゃない?」
私はと言えば、甘い物好きな智のために、ケーキの他に、ホットチョコレートを用意した。
「だから、大した話じゃないよ?」
「そうだったの。私、てっきりまた、お付き合いがしたい、って、電話なのかしら、って?」
「まさか…だって、翔くんにはもう…」
そこまで言いかけて、
私は口を噤んだ。
「さ、早く行こ?二人とも待ちくたびれてるよ?」
と、ケーキとドリンクを二人が待つリビングに運んだ。
智「んー、このケーキ、スゴく美味しい♪」
「んもー、智ったら子供みたい。」
ついてるから、と、無邪気に頬張る智の唇の端についたチョコレートをティッシュで拭った。
「智は昔から甘いものには目がなかったからなあ。」
「ほんと、虫歯もないし、どうしてこんなにスリムなのか不思議だわ。」
「………。」
ホントに…
中身もこのまま、変わってなければいいのに…。
と、やるせない目で見ていた私と、
私を探るように見ていた智の目が合ってしまった。