マリア
第22章 遁走曲
その日も俺は学校を出、コンビニへ立ち寄り、
カズが待つ部屋へと向かっていた。
階段を駆け上がり、ポケットから鍵を出し、
造りが古いせいで中々開かない鍵をガチャガチャと回していた。
やっと開いた、と思い、中に入りドアを閉めようとすると、違和感を感じた。
え?な、何?
その違和感は、
ドアが閉まらないように隙間に足を挟み込み、
さらには黒い人影が隙間から覗いていた。
あ、と思った時には、その黒い人影が中に押し入ってきて俺の口を手で塞いだ。
「相葉……雅紀くん…だね?」
え?
突然のことで、俺の頭が回らなかったのも手伝ってか、
恐怖心もあったけど、
何より驚きの方が勝っていて、
俺は口を手で塞がれたままこくり、と頷いた。
「僕の言う通りにしてくれたら手荒なことはしない。」
だ……れ?
時間がたつに連れ落ち着きを取り戻してきた俺は、
これがスゴいヤバい状況だ、ってことが段々理解できていった。
でも、この黒い人影が、
強引に部屋の中に押し入ってきたにも関わらず、口調が柔らかかったこともあって、
初めに感じたような恐怖心はなかった。