マリア
第22章 遁走曲
カズの…カズのお兄ちゃん?
…聞いたことない…んだけど…
それに…
潤「…和也とは母親が違うんだ。」
道理で……全然似てないから分かんなかった。
…って、納得してる場合じゃない!
何とかこの場をやり過ごさないと…
潤「君が一番和也と仲がいい、って聞いたから。」
「そう…でもないですけど…」
だって、付き合ってたし。
その間も、向こうの部屋から聞こえてくる音はずっと聞こえてて、
カズのお兄さんと名乗る男の人も、チラチラと俺の背後を伺っていた。
この人、俺を疑ってる…
事実、カズはあの部屋にいるけど…
すると、絶えず聞こえていた音は、重いものがどさり、と床に落ちるような音のあと、呻くような声が聞こえた。
カ、カズ……!
ベッドから落ちたのか?
迂闊にも、俺が襖の向こうを気にするみたいに振り返ると、
カズのお兄ちゃんが「ちょっとごめん。」と、部屋の中に上がり込んできた。
「えっ?…あっ…!ちょ…ちょっと待っ…」
カズのお兄ちゃんが襖をさらりと開け放った。