マリア
第22章 遁走曲
バレた…
案の定、カズはベッドから落っこちていて、
そのカズのお兄ちゃんとやらがカズに声をかけながら抱き起こしていた。
でも、カズの手首に付けられた拘束具を見て、
ちょっと外見はむさ苦しいけど温和だった空気が一変した。
潤「これ……は?」
カズの手首が動く度にジャラジャラと鳴る音に、
カズのお兄ちゃんの顔が険しくなっていく。
潤「説明……してくれないか。」
カズのお兄ちゃんは、
痩せ細って骨ばったカズの手首を掴み、拘束具を俺に見せつけた。
潤「…この子にこんなものを取り付けてどうするつもりだったのか、と聞いている。」
口調は静かだが、
誰が聞いてもその声音には怒りが伝わってくる。
彼は俺の返事も聞かぬまま手錠を外し、サイズがあわなくてダブついたスウェット姿のカズに自分のコートを羽織らせた。
潤「さ、帰ろうか?」
虚ろな目で彼を見上げていたカズの頭が上下に動く。
「あ……」
カズを抱き上げ歩き出した背中に声をかけようとした。
潤「このまま黙って帰してくれたら警察には言わない。」
じゃ、なくて、
いいんだ、そんなことは…
ただ…ただ…カズだけは…
俺はキッチンへ走り、手にしたものを、
立ち去ろうとした背中に突き立てた。
カズだけは連れていかないで………。