マリア
第23章 変奏曲 ②
「ううん。」
智「じゃ、帰ろっか?」
と、手を差し出す智。
その男の子らしからぬ綺麗な指先に指を絡めた。
「ね、智、ちょっと寄り道していかない?」
智「寄り道?」
「話……聞くよ?」
智「え?」
「だって、浮かない顔してたから。」
智「あっ……あ…りがと。」
一瞬驚いた顔をして、すぐ不機嫌そうな顔をする。
お父さんもお母さんも、
智は感情をあまり表に出さない子、って、言うけど、
私には、智がふとした瞬間に見せる顔だとか仕草とかを見逃さない。
小さい時からいつも一緒だったから、
どんな時にどんな顔をするのか、どんな仕草をするのかを知ってる。
だから智が今、ちょっと落ち込んでる、っていうのも何となく分かった。
「え?翔くんが?」
智はまだ仄かに湯気が立ち上る紙コップに、ふぅーっと息を吹きかけた。
「それは…ちゃんと理由は聞いた?」
それには答えずに、
紙コップを目の前に置いたままカウンターに突っ伏してしまった。
「……。」
翔『ウソ…だろ?』
私は例の二人の名前を出した途端、電話口で絶句していた翔くんのことを思い出していた。
智「来年は受験だから、勉強、勉強でただでさえ会えなくなる、っていうのに…」
と、智はカウンターに突っ伏したまま鼻を啜った。