マリア
第23章 変奏曲 ②
「ふふっ。期待した?」
翔「少し…」
「正直だね?」
目の前のグラスに刺さったストローをちゅる、っと吸い上げた。
「実は私も。この間の電話、そうなのかな?って、期待しちゃった。」
翔「そうだったんだ?ごめん。」
「ううん。いいんだけど…」
翔くんの手がカップに伸びたことにつられて、私もストローを口にした。
翔「話…って?」
「智のことなんだけど…」
やっぱり、と、翔くんは大きく息を吐いた。
「まさかこのまま…別れる、って言わないよね?」
翔「それは…まだ…。」
「智まで見捨てる、って、言わないよね?」
翔「ちょ…見捨てる、って?」
「お願い!私のことは病気だから仕方ないにしても智のことは見捨てないで!!」
翔「いや…だから…そこまで…」
「お願い…」
でないと、
私が智をつれていかなきゃならなくなるから…。
目に見える全てが沈んでゆく。
智を見捨てないで、と、
譫言のように繰り返す私をも捲き込んで……
翔くんは、
そんな私を抱きかかえるように慌てて店を後にした。
翔「落ち着いた?」
気づいたら、お店からは程近い公園のベンチに座っていて、
首元には赤のマフラーを巻き、
手には湯気が立ち上る紙コップが握られていた。