マリア
第23章 変奏曲 ②
翔side
礼音のあの口ぶり…
まるで、もう、会えないみたいな…
『智の側にいてあげて…』
そのつもりだったけど…
今でも忘れられない、
二宮のあの声…。
和「さ、櫻井さん!!」
雅「あっ!!カ、カズ待っ…」
和「櫻井さん、助けて!兄貴が…兄貴が…!」
腰から血を流し蹲る松本先生。
和「櫻井さん、早く…早く救急車呼んで!?」
「に、二宮、これ…?」
和「お願い!早くっ!!」
漸く状況を把握できた俺は、震える指先で救急車を要請した。
智「そう……なんだ…?」
話があると、
智を呼び出したあの、少し肌寒い三月のある日。
河川敷にスケッチブックを広げていた智の隣に座り、
俺が雅紀のアパートで見たことや、二宮から聞いたことを、余すことなく智に伝えた。
智は何でもない風を装ってはいたけれど、鉛筆を持つ手が微かに震えていて、
突如吹き抜けた強い風に拐われてしまったタンポポの綿帽子の行方を二人、黙って見ていた。
智はため息をつきながらスケッチブックをしまうと、立てた膝を抱え込むように座り直し、
話の続きを促した。
智「それだけ?」
「いや…その…」
智「…分かっ…た。」
不意に智の指先が伸びて、目の前に生い茂るクローバーを一本プチッ、と手折った。