マリア
第23章 変奏曲 ②
智「あげる。」
差し出した智の手の中には四つ葉のクローバー。
智「最近の僕のブームなの。これを探すのが。」
「そうなんだ…」
智「じゃ、僕、行くね?」
背中を少し丸め、ズボンをパタパタと払いながら立ち上がり、
細い体には少し大きすぎるスケッチブックを抱えた。
智は振り向きもせず歩き出す。
途中、何度も止まりかけてはいたけど、それでも振り向くことなく歩き続けた。
そんな智のことを、姿が見えなくなるまで見送った。
何度か足を止めていた智のあとを追いかけていって、今、言ったことは無しにしよう、と、言いかけては諦めて、
そんな無言の葛藤を繰り返しているうちに、いつの間にか智の姿は見えなくなっていて、ほっとしている自分がいた。
『距離をおこう…』
そう言い出したのは俺からだったのに、
さっきまで、智が座っていた場所に置かれていた白い手袋を見た途端、
一気に後悔と不甲斐なさに押し潰され、ぼろぼろと泣き出してしまう俺がいた。
一頻り泣いたあと、その白い手袋を握りしめ歩き出す。
智の中の俺はもう、
過去に括られてしまったのかもしれない、と思いながら。