マリア
第24章 鎮魂曲
「その腕……」
智「う、腕?」
智は慌てて長い袖のシャツに包まれた腕を背中に隠した。
智「こ、これは……その……猫に引っ掻かれて…」
「そっか…」
こんな暑い時期に長袖を着てることも気になって、さらに追及しようとした時、誰かがドアをノックした。
「智、翔くん、いいかな?」
智「あ、父さんごめん。」
「母さんがお前を探してる。」
智「…分かった。」
少しだけ開けたドアの隙間で会話する父子。
おじさんが姿を消したあと、何やら言いたげに振り向く智に笑いかけた。
「じゃ、俺、そろそろ行くな?」
智「ごめんね?」
「また、明日。」
智「うん…」
一階に降り、おばさんに挨拶をしてから智の家をあとにした。
帰宅ラッシュのピークも終わって、人影まばらな電車の中は気持ちを落ち着かせてくれた。
背もたれに背中を預け、大きく息を吐く。
智と始めて繋がった時から、
それ以前からかもしれないけど、
俺にはずっと、心に引っ掛かっていたことがあった。
今日もそうだったけど、
智が意識を飛ばすほどイッたところを見たことがない。
多分、智も少なからずセックスをすることで快感を味わうことはあると思うが、
意識を失うぐらい、ってのは記憶を辿っても、ない。
特に今日は、
意識してそうならないようにしていたような気がしてならなかった。