マリア
第25章 後奏曲
まるで、背筋を氷の欠片が滑り落ちてゆくような感覚。
いつもの智じゃない。
こんな、作ったように笑う智なんか見たことがない。
気づいたら、すでに礼音の棺にはもう白い蓋が被せられていてその姿を見ることが出来なくなっていた。
「智、行くよ?」
智「…分かった。」
じゃ、また、後で?と、
智はおじさんの元へと走り出す。
偶然だって?
礼音の発作も、薬がいつもと違う場所にあったのも。
智が、その場にいなかったのも…。
まさか…まさか……?
顔をあげると、智の姿はすでになく、
皆、会館の玄関から、
黒い車に乗り込んだ彼らを見送っていた。
黒い車の姿が見えなくなると、各々、傘を差し駐車場へ向かう者、
マイクロバスに乗り込む者とに別れた。
我に返った俺は、慌ててバスに飛び乗った。
ただの偶然なんて、
重なれば自ずと必然になる。
発作に悶え苦しみ、床を転げ回る礼音。
その姿を、無表情の智が見下ろしていて、
その、智の手の中には、
天使のレリーフが施された青い小物入れがあった。