マリア
第25章 後奏曲
しばらくすると、その場に居合わせた大人たちの無責任な会話が耳に入ってきて、
僕はそのまま聞こえない体で制服ついた見えない匂いまでもを払い続けた。
「…最初に気付いたのが、あの子のお兄ちゃんでしょ?」
「でも、もう手遅れだったらしいね?」
同じく、無責任な大人の会話に、ボンヤリ耳を傾けていた翔くんが僕の存在に気づき、声をあげた。
翔「さ、智…くん。」
翔くんの言葉に、その場にいた大人たちが一斉にこちらを振り向く。
そして、ばつが悪そうにもっとらしい言い訳を口にしながら各々その場から立ち去っていった。
僕は、
彼らが立ち去った後、まだ、制服に点々と付いた水滴を手で払いながら翔くんの隣に座った。
翔「お茶、飲む?」
「…うん。」
僕は翔くんが目の前にお茶を出してくれるまで、
制服をパタパタと払い続けていた。
「ありがと。」
翔くんが、僕の湯呑みを持ち上げ唇の奥へとお茶を流し込む様を黙って見てるのを、
横目で見ていた。