マリア
第25章 後奏曲
「あっちぃ…」
猫舌だった僕は、
一口飲んだだけで湯呑みから唇を離し、顔をしかめた。
「…何?」
翔「え?」
「ボーッとしてるから…」
翔「あっ…き、昨日、遅くまで勉強してたからかな?」
心ここにあらずなことを僕に見抜かれ、
咄嗟に翔くんが取り繕う。
「逝っちゃったね、礼音?」
僕はどこか定まらない視線のまま、
お茶をずずっと啜った。
翔「おばさん…」
「うん?」
翔「大丈夫?」
「今は落ち着いてるけど…」
医者からは長くは生きられない、と言われていた礼音。
それでも17年生きたのだ、と、父さんと母さんは割り切り、
式では気丈に振る舞っていた。
でも母さんは僕が少し油断した隙に、礼音が今まさに、重い扉の向こうに押しやられようとする時、
箍が外れたように、荼毘に付されようとする礼音の棺にすがって惨いことをしないで、と、泣き叫んだ。
取り乱す母さんを、やっとの思いで僕とお父さんとで柩から引き剥がした。
その棺が収められた火葬装置の扉が閉められると、
母さんは僕にしがみつき、礼音、礼音と叫びながら泣いた。
もう、2度と、
もとの礼音の姿で会うことが出来ないのだ、と言って。