マリア
第25章 後奏曲
店を出てすぐ、智は早足ですたすたと歩いてゆく。
さっきの俺の言動が余程恥ずかしかったのか、遠目から見ても耳は真っ赤で、
あの時泣き崩れた智とは別人のようだった。
そのまま距離をとりつつしばらく歩いていると、
智のことをチラチラと伺いながら囁き合う三人ぐらいの中年女性たちが目についた。
彼女たちに気づいた智が一旦足を止めたものの、また、歩調を早めて歩き出す。
早足、と言うよりは小走りで顔を俯けたまま走り出す。
さっきのおばさんたちの前をゆうに通り越したあとも、智の歩調は変わらなかった。
俺はだんだん遠ざかってゆく智の背中を見ていたが、
部活をやめてから数ヵ月ぶりに全力で走り、智の手を捕まえた。
「智、走れ!!」
智「えっ?あっ?ちょっと翔くん?」
俺に引っ張られるまま、智も走り出す。
どのぐらい走ったか分からないけど、俺の息が続く限り全力で走った。
そして、とうとう力尽きた俺たちは、道の真ん中に倒れこんだ。
「はー、久しぶりに走った。」
智「も〜何?いきなり?」
「…気にすんな、って?」
智「翔くん…」
道の真ん中で大の字に横たわりながら、呆れ顔していた智に笑いかける。
智「うん…」
本当は、もっと早くに気づいてやるべきだったんだ。
智の心の闇が、想像以上に深い、ってことに。