マリア
第26章 終曲
智の声が聞こえなくなった電話を耳に当てたまま、
あの栞をしばらく眺めていた。
もし…
受験なんかやめて、
卒業したら、二人して遠くに行こう、って言ったら、
智、お前はどう思うかな?
喜んでくれたら嬉しいけど、
多分、怒るよな?
もっと、自分の人生大事にしろ、とか、言って。
そんな翔くんなんかキライだ、とか言って。
でも、もし、
万にひとつの可能性だけど、
うん、って、言ってくれたら、
卒業なんて待たずに、今すぐ荷物をまとめて、
行き先も決めずに電車に飛び乗って、
二人でここだ、って決めた場所で生きていく。
死ぬまで、片時も離れずに生きていくんだ。
でも、気まぐれなところのある智のことだ、
智が行きたい、っていった場所とか、
あちらこちらと色んな場所に移り住むのも悪くない。
そして、智が一番気に入った場所で人生の幕引きをするのも悪くない。
どちらが先に逝くことになったとしても、
君と会えて幸せだった、って思えるように。
「智……」
今、君に、
とてつもなく会いたい。